先週64歳になった。とうに人生の折り返し地点は過ぎている。
ニッセイ基礎研究所のレポートによると2016年時点での男性65歳の平均余命は約20年なので平均すると85歳まで生きられる。そのうち健康余命は14年だから79歳くらいまではなんとか日常生活に支障がない状況でいられるらしい。
逆にいうと人生の終焉までの6年間は何らかの支障を背負って生きることになるということだ。
女性の場合男性よりも長く90歳くらいまで生きられるが、その分不自由な状態の期間も8年にのびる。
歳を重ねるにつれ、だんだんと身体がいうことをきかなくなり、さまざまな病気になるのは自然なことと考えられている。
理想をいえば「ピンコロ」つまり死ぬ直前まで元気で、気がついたら死んでいたという状況が望ましいが、それはごくごく恵まれた人にしかおこらない。
ところがそうでもないという本が出版された。それが「LIFE SPAN 老いなき世界」という本だ。
歳をとって亡くなる場合、多くの人が何らかの病気でなくなるのが一般的だ。例えばガンや心疾患(心筋梗塞など)、脳疾患や肺炎などがある。
こうした死に至る疾患原因の背景には老化がある。老化が防げれば病気にもかからない、つまり老化そのものが疾患を引き起こしている病気ととらえるべきだと著者のデビッド・A・シンクレア(ハーバード大学医学大学院の遺伝学教授)は主張する。
老化を病気ととらえれば、多くの人が治療を受けることが可能になり、今までより元気で長生きできる世の中になるというのだ。
この本は大きく三つのパートからなっている。
1.老化について私たちが知っていること(過去)
2.私たちが学びつつあること(現在)
3.私たちはどこへ行くのか(未来)
老化の原因は体の情報の劣化
DNAの遺伝情報はアデニン、グアニン、チミン、シトシンという塩基が担っている。アデニンはチミン。グアニンはシトシンとしかペアになれないのでデジタルの情報といえる。
デジタル方式のDNAは情報の保存やコピーが確実に行えるという利点がある。とはいっても完全ではない。
私たちの細胞が分裂する際にDNAの複製が作られる。その際に一部がうまく複製されず損傷する。その損傷の数は1日で2兆回にもなるそうだ。その積み重ねによってDNAの情報が劣化していく。さらに化学物質や放射能などの環境から受けるダメージも加わる。こうしてだんだんとDNAの情報が失われていく。
この設計図DNAとは別の情報システムにエピゲノムと呼ばれるものがある。
エピゲノムは設計図であるDNAの遺伝情報のうちどの情報を使うかを決め、分裂したばかりの細胞にどのような細胞になるのか指示・調整をする働きをしている。
エピゲノムは環境に適応するため、情報を記録し保存する際にアナログ形式をとっている。メリットは変化に柔軟に対応できるという点だ。デメリットは時間とともに劣化し情報が失われることだ。
DNAの損傷とエピゲノムの情報劣化が老化の原因と考えられている。
ただし身体にはDNAの損傷が起こった際に、それを補修する仕組みも持っている。もしその仕組みがなければもっと早い段階で死に至る。その補修機能を著者は「サバイバル回路」と呼ぶ。
この「サバイバル回路」を強化すれば老化が防げるというのである。
こうした研究は進展を見せていて、私たちが健康寿命を延ばすためにできることもわかってきている。さらに老化を治療できる薬の開発も進んでいるようだ。
そう遠くない将来。おそらく今の40歳よりも若い人たちの寿命は確実に伸びていて、平均寿命は120歳くらいになっているのではないだろうか。
そうなると64歳というのは、ようやく人生の折り返しをすぎたばかりとなる。当然社会の在り方も大きく変わらざるを得なくなる。
本文だけで500ページ近いが、多くの人に読んでもらいたい。