停電で思い出したこと

セブ島を襲った台風の影響で、一カ月以上たってもいまだに多くの地域で停電が続いている。

日本でも台風で停電が発生することがある。ただし停電が長く続くことはあまりない。
そんな日本で4~5日ほど台風の影響で停電したことがある。

1999年の9月24日に熊本県に上陸した台風18号。
鹿児島県出水市の営業所勤務をしていたときにこの台風に見舞われた。
夜間に猛烈な風が吹いて、窓ガラスが風でたわむのがわかるほどだった。駐車場に停めてあった軽自動車がひっくり返るほどの暴風雨で、実際に窓ガラスが割れた家も多かった。

この台風で熊本県南部の九州電力の鉄塔が13基倒壊した。設計上瞬間風速54メートルまでは損傷がないような鉄塔だったが、この時の最大瞬間風速は80メートルを超えていた(鹿児島県甑島)という記録的な風で倒壊したのだ。この鉄塔が熊本県八代市から水俣市にかけて設置されていたので、八代市南部から水俣市、出水市までの広い範囲が停電になった。

その時電気がないとこれほど不自由な思いをするのかと思い知らされた。
まず情報が入ってこない。今のようにスマートフォンがない時代で、携帯電話だけだと情報が限られている。ラジオは車で聴けるが、被災地が県庁所在地や大きな都市でないと報道価値がないのか被災状況の報道がない。
だからいつ電気がつくのか皆目見当がつかない。

夜は蝋燭と懐中電灯が頼りの生活になった。
外に出てもあたりは真っ暗で、発電機のある市立病院くらいしか電灯がついていない。
そんななか、営業している居酒屋「とんちゃん」で蝋燭の明かりで酒を飲んだ帰り道、ふと目をあげると空には満天の星が見えた。普段は北斗七星かオリオン座くらしか見えないが、停電で街の光がない空には天の川銀河があった。

電灯がある生活が始まったのはつい昨日の出来事だ。一般家庭に電灯がともるようになったのは明治時代も終わり、わずか120年ほど前のこと。
それまでは停電の夜に見た満天の星を仰ぎながら人々は暮らしていた。それだけ星は身近な存在だったはずだ。

星々をつなぎ合わせ星座の物語が紡ぎだされ、星の動きから天文学が生まれてきたのは電灯がなかったからともいえるのかもしれない。

子供たちの住む場所にはまだ停電が続いているが、通電したときに電気のありがたみを感じるとともに、電気のない生活の良さにも気付いてほしいと思う。

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