光と陰

少し古い話になるが、4月27日にフィリピンのPapplerというソーシャルニュースサイトが3枚の写真を掲載した。

写真はセブ島とマクタン島を結ぶ第3架橋だ。写真だけ見ると立派な橋だとしか思わないが、下の左側の写真には新しい橋の前景に崩れかけた家々が写っている。この地域はパシルというスラム街で、セブの地元のフィリピン人でも近寄らないというエリアだ。

この写真を掲載したRapplerは2021年にノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサ氏が創設し、政府に批判的な記事をたびたび載せたことで裁判沙汰になり、6月29日に事業許可を取り消されている。
取り消しの理由は、Rapplerが外国資本から資金を調達したことが、外国資本によるメディア所有を禁じた法律に違反していると裁判所が認定したからだ。
ちなみにその資金を提供したのは、アメリカのオークションサイト「イーベイ」の創業者、ピエール・オミダイア氏が抱える投資会社だそうだ。
この取り消しについて、Rapplerが政府を厳しく批判してきたことが本当の理由だとマリア・レッサ氏は主張している。

こうした背景を知らずに上の第3架橋の写真をみたら、ただ単に立派な橋ができたという感想をもつだろう。私もそのように思った。

Rapplerが掲載した写真となると、そこには別な意図が見て取れる。つまり、貧困問題を解決せずに巨額の資金で立派な橋を造ったことを痛烈に批判しているのがこの写真というわけだ。

セブ市のラマ市長も荒廃した貧困地区を解消するため、第3架橋の計画時にはパシル地区の再開発gが検討されたことを明かしているそうだ。

この写真を見て、「エントラップメント」という映画のことを思い出した。ショーン・コネリーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズが主演した映画で、最後の大仕事の場所が当時世界で一番高かったマレーシアを代表するペトロナス・ツインタワーなのだが、そのすぐ足元には庶民的なスラム街が広がっていた。実際にはペトロナス・ツインタワーは街中にあるので、その場面はアジアの雰囲気を出すための演出だった。この映画を観たマレーシアンのマハティール首相は、事実と違う描写をされたことでひどく怒ったらしい。

ルック・イーストという標語を掲げ、経済発展のために尽力していたマハティール首相にしてみれば、スラム街と高層ビルという対比を見せつけられたことに我慢できなかったのだろう。


「光と陰」と一言でいうのは簡単だが、解消には多くの課題があるのだろう。
フィリピンの経済成長は著しく、今年の成長率は6%を超えるとIMFは予測している。だから、上の写真を見て「かつてそんな光景があった」という日も遠くないし、そうならなければならないと思う。

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