フィリピンを含む東南アジアに移住を検討している人が真っ先に挙げるのが物価の安さだ。
確かに現地の人の給与水準は先進国中最低ランクの日本に比べても低い。
タイの給与水準は日本の7分の1、フィリピンは8分の1だ。
年金収入だけでも普通の生活ができることから老後の移住先として人気があるのも頷ける。
とはいっても言葉や文化、社会環境も違う国で暮らすとなるとさまざまな問題が起こるのは容易に想像できる。
それまで縁のないところで暮らすのだから移住先の環境に対応できる柔軟性は必要だ。
日本人がある程度住んでいる地域なら情報交換を含め精神的にも安心だと思う。
外務省の調べで東南アジアで居住している日本人は多い順に、タイが81,000人、シンガポール36,000人、マレーシア31,000人、ベトナム23,000人、フィリピンは17,000人となっている。
都市別ではバンコクが58,000人、シンガポール36,000人、クアラルンプール16,000人、ホーチミン12,000人でマニラ首都圏は8,000人だ。
ところが永住者に限ると最も多いのはフィリピンで6,013人。次いでシンガポールの3,381人。一時期移住先として人気だったマレーシアが1,992人、タイは1,828人、ベトナムはたったの298人だ。
つまり東南アジアに住む多くの日本人は駐在員やその家族で、完全に移住している人はそれほど多くない。
そんな中で永住者が突出して多いのがフィリピンでありシンガポールだ。
この2ヶ国の永住者が多い理由は言葉にあるのではないかと思う。
フィリピンにしてもシンガポールにしても英語が多少でもできれば生活できるが、タイやマレーシアは日本と同じで英語はほとんど通じない。
日本人が永住している国はかつて移民先だったブラジルやアルゼンチンを除いて英語圏の国が圧倒的に多い。
アメリカ合衆国の21万人は別格としても、オーストラリアとニュージーランド併せて7万人。カナダ4万7千人。英国が2万5千人だ。一方英国の隣フランスは9千人でしかない。
英語がどの程度話せるか別にしても、少なくとも英語は中学、高校で必修科目なので他の言語に比べると多少はわかる日本人は多い。それが移住先を選ぶ際の基準となっているのではないだろうか。
移住先でその国の言葉がわからないと相当苦労するはずだ。
多少ともなじみのある言葉で意思疎通できれば移住のハードルは低くなる。
言葉の次に移住に必要なのはお金だ。
移住を認めるビザの取得に際して収入や一定額以上の預貯金があることを条件にしている国が多いのは、移住者が働かなくても生活できる裏付けが必要だからだ。
つまり移住を受け入れた国の労働者の仕事を奪わないことが求められている。
タイのリタイアメントビザの基準は結構高い。タイの銀行口座に80万バーツ(約288万円)の預金があるか、もしくは年金受給月額が6万5千バーツ(23万4千円)あることが条件だ。
フィリピンは少しハードルが低く、年金受給者の場合フィリピンの銀行口座に預金1万ドル(113万円)、年金受給月額が800ドル(90,400円)あればビザ取得の要件を満たすことが出来る。
ちなみに国民年金だけだと条件を満たさないが、この場合2万ドル(226万円)の預金があれば申請可能だ。
もっともフィリピンは観光ビザで入国し更新すれば最長2年は滞在できるので、無理にリタイアメントビザを取らなくても良いといわれている。
観光ビザでプチ移住をしてみて問題なければ完全移住をするのもありだと思う。
厚生年金に長く加入していた人なら年金収入だけでも普通の生活はできる。
ただフィリピンに限らず東南アジアの物価は年々上がっている。日本が20年間ほぼ物価が上がらずデフレ傾向が続いていることを考えると、この先ずっと移住先で普通の暮らしが出来るかどうかわからない。
医療を含めた社会インフラを考えると日本の方が生活コストは安くなる可能性が大きい。
だから物価が安いから移住するという選択は少し考えなおしたほうがよさそうだ。
もちろん寒い冬がなく、のんびりとした生活をするのが目的なら移住はありだと思う。