ロンドンを訪問中の岸田総理大臣は、金融街シティーで日本経済に対する政府の取り組み方針について講演した。
日経新聞が伝えるところでは次の四つを柱とした取り組みをしていくとのことだ。
①人への投資…賃上げと職業訓練や学び直しによるスキルアップによる雇用の流動化
②科学・イノベーションへの投資…人工頭脳、量子、バイオなどの国家戦略分野に取り組む企業へのインセンティブ強化
③スタートアップ投資…戦後第2の創業ブームを起こすための環境整備
④グリーン、デジタルへの投資…原発再稼働と再生エネルギーなどへの投資
官民の連携でこうした投資を実現していく方針だ。
投資というからには資金が必要だが、その資金は民間の金融資産をあてにしているらしい。
日本人の家計には2023兆円もの金融資産があるし、企業の内部保留として320兆円の預貯金がある。だから投資資金はある。
当然のことだが投資はリターンを期待してするものだ。政府がいくら旗を振ってもリターンが望めないものに果たして国民や企業は投資するだろうか。
講演の全文が発表されていないので不明な点もある。
総理は重要なストック面での人への投資は「貯蓄から投資」といったらしい。
貯蓄から投資がなぜ人への投資になるのか意味不明だ。
日本人が持つ2000兆円を超える金融資産の約半分が預貯金だ。金利がほぼない状況ではこの預貯金は何も生み出していない。これを投資へシフトすれば金融資産の倍増につながると総理はいう。
たしかにこの10年でアメリカの株価が上がり、アメリカの個人投資家の金融資産は3倍になった。ただ投資した株価は上がることもあれば下がることもある。
金融資産が増えれば可処分所得も増えるから、その一部がスキルアップなどの自己投資に回るかもしれない。それを「人への投資」というのだろうか。
個人的には少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充は歓迎できる。それによって将来の金融資産所得が増えるのはよいことだとは思う。
一方で日本経済が停滞している現状では投資先はアメリカやヨーロッパにならざるを得ない。
銀行に眠っている預貯金1000兆円の一部でも投資に向かえば何が起こるか政府も考えておいてほしい。
円を売ってドルやユーロに変えて投資することで円安が進むくらいならまだいいが、場合によっては日本売りになってしまうかもしれない。