南の島へのあこがれ

南の島に憧れるようになったのは、サマセット・モームの短編集『木の葉のそよぎ』を読んでからだと思う。

この短編集は南海ものと呼ばれていて、太平洋の島々、サモア、ハワイ、タヒチを舞台にした短編集で、「打ちふるえる一枚の木の葉によって、極度の絶望からわずかに分けへだてられた極度の至福、それが人生ではなかろうか?」というサント・ブーヴの言葉から名付けられたもので、一筋ではいかない登場人物たちが、西洋文明から遠く離れた南の島で生きていく危うさを綴った物語で構成されている。

この短編集をどういう経緯で読むことになったのかは忘れてしまったが、いまでも当時の文庫本を手元に残しているところをみると、相当に印象深かったのだと思う。奥付では「雨・赤毛」は昭和50年11月、「太平洋」は昭和51年8月増刷となっているので、19歳の時に買って読んだようだ。

この本のどこに惹かれたのだろう。19歳といえば好奇心旺盛で、ここではないどこかに憧れる年ごろだったから、本に書かれている日本とは全く違う自然ゆたかな南の島にことさら強い興味をいだいたのかもしれない。

ちょうどそのころ、タヒチ島観光がブームになりかけで、グラビアなどでサンゴ礁の海と椰子の木、白い砂浜といった写真を見る機会も増えていた。
日本からタヒチへの直行便も飛び始めていて、なんとしてもタヒチに行きたいと思った時期もあった。

とはいえ、大学生の身分で行けるわけもなく、南の島への憧れだけが募っていた。
だから就職して先輩からセブ島に誘われると、二つ返事でツアーに申し込んだのだ。

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